盛岡タイムス Web News 2012年 7月 10日 (火)

       

■ 〈イタリアンチロルの昼下がり〉152「干し草は夏の匂い」及川彩子

     
   
     
  ここ北イタリア、アルプスの裾野のアジアゴ高原では、今が干し草作りの真っ盛り。梅雨のないイタリアでは、6月に入ると、日ごとに気温が上昇、ほとんど雨は降らず、乾燥状態が続きます。強い日差しはまさに夏本番です。

  また夜10時になっても青空の夏時間は、干し草作りには最適。標高千bの街の周辺に続くなだらかな牧草地を見渡すと、干し草の畝が、まるで巨大なカーペット模様です。

  この地方の干し草は、大昔、アルプスが海の底だった恩恵を受け、カルシウムたっぷり。特産の大理石に、アンモナイトの化石があちこちに紛れ込んでいるのも珍しくありません。

  その栄養価の高い干し草をはんだ乳牛で作られるアジアゴ特産のチーズが「骨のミルク」と呼ばれるゆえんです。

  広大な牧草地を、何台もの専用トラクターで干し草作りに精を出す農家。子どもの背丈ほどに伸びた草を刈った後は、トラクターの後ろに付いた歯車を回転させ、草を乾かす作業。それを何列もの畝にし、大きなドラム缶のような干し草にまとめ上げていきます〔写真〕。

  今は、どの作業も機械化されましたが、私がイタリアに来た15年ほど前までは、手作業に頼る農家が少なくありませんでした。親戚付き合いをする大農家パガニン家でも、トラクターで草を刈った後は、ほとんどが手作業。夫も私も、連日、手伝いに借り出されたものです。

  フォルカ(フォーク)と呼ばれる鍬(くわ)を持ち、刈った草をかき混ぜ、乾燥させながら歩く畝。30分もすると、額には汗、何度となく手に豆もできました。幼い娘たちは、干し草を山のように積んだ運搬車に乗せてもらうのが、何よりの楽しみでした。そんな懐かしい作業も、女主人のアントニァが高齢になったため、今では専門業者に依頼しています。

  早朝から聞こえるトラクターの音、窓を開けると、飛び込んでくる刈りたての草の香とひんやり青い空、それはまさに夏の匂いです。

 

本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします