盛岡タイムス Web News 2012年 8月 20日 (月)

       

■  〈幸遊記〉85 照井顕 林尚武のSTAX

 家にいて深夜や未明に、ある程度の音量で音楽を聴きたい時、僕はSTAX社のコンデンサー型ヘッドフォンSR-5「イヤースピーカー」を耳に掛ける。何という素晴らしい音なのだろうと、聴くたびに、30年以上も、そう思い続けてきた。

  初めて聴いたのは20代の前半の1970年。その忘れられない美しい音色の、本物のスピーカーに出合ったのは10年後の1980年、東京の友人宅。翌日、僕はその彼を拝み倒して、STAX社に連れていってもらった。所は雑司ケ谷、1907年建造の古い洋館の本社屋にて。その試聴室にあった畳一枚分もある大きな、ついたて型のコンデンサースピーカー、ESL-6Aを安く譲ってもらったのだった。

  コンデンサースピーカーとは、人間の鼓膜の100分の1の薄さという特殊なフィルムを振動板とし、その両側面の電極板に数千ボルトの電圧をかけて信号を送り、そのフィルムを引っ張り合いっこすることで音が出るという不思議なスピーカー。近づいてもうるさくない音圧を全く感じさせない自然な音なので長時間聴いても疲れない。

  開発したのは故林尚武氏(スタックス工業社長)。戦前の帝国蓄音機(テイチク)の録音技師だった彼が1938年、昭和光音工業を創立。録音用コンデンサーマイクをヒントに1959年、スタックスブランドのコンデンサーヘッドフォンを試作し、発明展に出品したのが始まり。翌60年に発売したSR-1以来、コンデンサー型ヘッドフォンは、STAXの独壇場。再生には専用アンプが必要のため高価だが、理想主義を貫いた驚異的な音楽再生機器。

  林尚武ご夫妻には、生前何度かお会いできたことも僕の幸せ。とても素敵な方たちでしたが1995年会社を閉めた。翌96年、ラックス社にいた方が社長になり、ヘッドフォン事業だけの有限会社スタックスとして引き続き運営されていたが、2011年12月、中国の音響機器メーカーに買収された模様。

  林尚武さんの一人息子健さん(65)は今、その聴こえる技術をさらに高めるために必要なケーブルや、その接点コンタクトを高める液・セッテン79(金の原子番号)等を開発している、オーディオアクセサリー関連のナノテック・システムズで、クリエイティブ・デザイン室長を務めている。
(開運橋のジョニー店主)
 


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