盛岡タイムス Web News 2012年 10月 1日 (月)

       

■ 〈わが歳時記〉 高橋爾郎 10月

 神無月10月。例年にない猛暑の9月だったが、やはり秋の訪れである。8日は冷気加わり露寒さ寒露、そして体育の日、23日は露凍り霜となる霜降、27日は豆名月の十三日夜だ。ぼくらの地域は津志田芋と呼ばれる里芋の産地だが、雨不足で生育が悪く、不作なようだ。今年はおいしい芋の子汁がたくさん食べられるのだろうか。

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  12年ぶりにご開帳の平泉中尊寺の「一字金輪佛頂尊坐像」を拝観した。藤原三代秀衡の念持佛と伝えられるこの秘佛には以前2回ほどお目にかかっているが、前にも増してますます、初々しく気高く、その美しさは例えようがない。全身は人肌の色だ。お顔に細くひかれた眉、生き生きとした優しい目、唇は朱に色取られ、頬にはうっすらと紅が刷かれていてふっくらと丸い。髪は高く結いあげられて櫛目も正しく、肩の線もなだらかだ。頭には宝相華唐草文様の精巧な金銅の宝冠を頂いている。肩からの衣の裾は右と左に二つに分かれて、蓮華の台座にふんわりとかかっている。人間のあらゆる煩悩を取り除いてくれるという両手に結ぶ智拳の印の指のふくらみのよさ、まさに生きいる藤原時代の少女さながらである。だからこのみ佛は俗に「人肌の大日、人肌の如来」と呼ばれている。

  この佛像は頭から胴、手首まで、その内側が深くくり抜かれているという。胸のあたりの内側に、ポロンという梵字一字が刻まれた金銅の板が打たれていて、これが一字金輪と呼ばれるゆえんという。一字金輪とは完全無欠、すべての徳を備えている諸佛の中での最高の巧徳を持つみ佛という。ぼくは立ち去りがたい感動に浸りながら、長い間、このみ佛を仰いでいた。

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  わが家の花畑はいま彼岸花が真っ盛りだ。2、3日見ぬうちにいきなり咲く。葉に先立って40aぐらいの花茎がすっと伸びてくる。そして朱花色の六花弁を5、6個一斉に咲かせる。花弁が反り返って、中から長いしべを髭のように反らす。辺りが鮮烈な赤い火花を散らしたようだ。曼珠沙華とも呼ばれ、さらには天涯花、死人花、捨子花、幽霊花などかわいそうな異名が付けられている。この花もわが家の秋の風物詩だ。

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  小岩井の牧のかぎりを鰯雲
                西本一都

  馬やさし霧に濡れたるたてがみよ
                 中野鶴平

  裏戸出て黄菊切りけり露時雨
                 原 抱琴

  新米の湯気に睫毛がからみあふ
            工藤節朗(歌誌編集者)


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