盛岡タイムス Web News 2012年 10月 2日 (火)

       

■ 〈あなたへの手紙〉 上斗米隆夫 夜鳴きそば

 

積み重ねた本の
一番下にある
上下二巻
それぞれ七百五十円

あのころ
学食の中華そばは
たしか 五十円

ほしい本の値段を思って
沈んでいたおれに
母はすでに気づいていた

赤い傍線や
数字や記号の書き込みから
悩みだらけの学生時代が
ざわざわと立ち上がる

寒い夜
父や母やそして弟や妹たちの
数少ない楽しみは
年に何度かの
夜鳴きそば屋の中華そば

この重たい本は
その楽しみの幾たびかを
奪ったにちがいないのだ

今も
夜になると
この本から
中華そばのにおいがする



本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします