盛岡タイムス Web News 2012年 10月 30日 (火)

       

■  〈詩人のポスト〉 吉野重雄 峠越えの道

         
 
秋田の六郷から
黒森峠を越えて
岩手の笹峠に抜ける道を
ひとりで車を走らせた
二年前にも訪ねていたが
道はやはり
途切れたままだった

道の端に立つ碑に
明治二十六年八月十六日
子規がこの峠を越えたとある
二十七歳とはいえ胸を病む身
どんなに厳しかったことか
それなのに何故…

大正六年の秋
十歳になったばかりの私の父も
同じ道を辿っている
沢内へ養子にもらわれて行くための
病弱な母親との峠越えだった

全面通行止めの柵の前に
車を乗り捨て
ミズナラの林を東南に抜ける
曲がりくねった道が尽きたところで
枯れた枝を手折り
地面に父という字の形に並べた
まだ青い団栗の実を拾って供え
合掌して引き返した

途切れたままの峠越えの道
あと何度
訪れることが出来るだろう
芒の穂は白く波打ち
赤トンボが群れて飛んでいる
青い空の底には冬が透けて見え
帰りかけた足が
ひとりでに止まる 



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