盛岡タイムス Web News 2012年 12月 11日 (火)

       

■  〈イタリアンチロルの昼下がり〉163 及川彩子 金曜日のバッカラ

     
   
     

 私の住むアジアゴは、アルプス麓の高原の街。乳製品や蜂蜜などが特産で、カルシウム豊富なアジアゴチーズは、イタリア3大チーズとして知られます。

  郷土料理も、生サラミやノロジカ肉、キノコなど山の幸が豊富ですが、私たち家族にとって残念なのは、街に魚屋がないこと。育ち盛りの娘たちのため、ベネチア付近の魚屋まで出掛け冷凍ボックスいっぱいに買ってくることもしばしばです。

  この高原の人々が全く魚を食べないというわけではありません。カトリックの国では、イエスが受難の十字架に掛けられた金曜日は、肉料理を食べません。そのため、金曜日になると、アドリア海沿いからトラック仕立ての魚屋がやってきて、ここアジアゴや周辺の村々を回るのです。

  スズキ、タイ、ヒラメ、イカ、アサリなど、どれもパスタ料理に合う食材ばかり。中でも一番人気は「バッカラ」。タラを塩漬けにして干したものが、真空パックで売られているのです。それを水で戻し、長時間煮込み、トウモロコシの粉で作ったおかゆを添えて食べます〔写真〕。

  バッカラは、15世紀、ノルウェーに漂着したベネチア商人が、寒風で丸ごと乾燥させる干しタラ作りを学び、ここベネト州に広めたのが始まり。当時、鮮魚の豊富なベネチア人から嘲笑されたと言われますが、内陸や山の街では、逆に重宝されたのです。

  石のように硬いバッカラをたたき割り、水を替えながら、ふっくらするまで戻すのに丸2日間。その後、小骨を取り、牛乳で煮込むのがベネト風。白濁がなくなるまで、じっくり煮込むこと2時間。

  白くフワフワに仕上がったバッカラは、熟成したチーズにも似て濃厚な味わいです。下ごしらえに時間を掛けながらも、週一度のバッカラを楽しむ高原の街の人々…わが家のバッカラは、親しい近所のパガニン家からのおすそ分けです。


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