盛岡タイムス Web News 2012年 12月 12日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉311 伊藤幸子 身替り座禅

 たとふれば独楽のはぢける如くなり
                   高浜虚子

  12月5日、歌舞伎俳優の中村勘三郎さんが亡くなられた。40代で「平成中村座」の芝居小屋をニューヨークまで持っていき、次々とエネルギッシュに活躍しておられたのに、病に倒れられた。ことし6月に食道がんを公表、7月手術からずっと入院加療中に肺炎を発症、あまりにも早い訃報に驚いた。

  「文藝春秋」6月号に「病を得て初めてわかったこと」として8頁にわたるインタビュー記事が載っている。「よく考えてみると、一昨年は歌舞伎座さよなら公演の最終の四月興行に一部二部三部全部に出演していた。そのあとコクーン歌舞伎、「佐倉義民伝」本番、7月「文七元結」…それでやめりゃいいのに名古屋御園座で父(十七代目勘三郎)の追善舞踊会。やめりゃいいのに次の日金沢へ行って踊って、やめりゃいいのに次の日海外に行った│」すさまじい日程と超人的な行動力。

  一昨年の歌舞伎座さよなら公演は私も4月4日、昼夜観劇。勘三郎、勘太郎、七之助の豪華三連獅子の激しい舞台に息を呑んだ。このときは九十歳近い小山三さんがかみしも後見をつとめられた。身長より長い髪を振り、三人の息をひとつに、見ても見ても見あかぬ場面。獅子の慕い寄る牡丹からしたたる露を表す鳴物も、動と静のはざまにしみた。この上ない子息たちとの連獅子を、私はこの先何年も見続けられると信じていた。

  平成17年春は、十八代目中村勘三郎襲名披露公演を観た。この日は「京鹿子娘道成寺」に酔いしれた。白拍子花子を勘三郎。芝翫、左團次、勘太郎、團十郎、海老蔵他の大舞台。

  ここは花盛りの道成寺。女人禁制なれど、金の烏帽子の花子が舞い始める。「恋の手習いつい見習いて 誰に見しょとて紅かねつきょうぞ みんな主への心中立て…」次々と衣裳の早変わり、踊りのみごとさ。手拭いにそっと滲ます口紅も笠も鞨鼓(かっこ)も、花子の身を揉む哀れを表白して切なく余韻を引く。

  5日早朝からの勘三郎さんを悼むテレビ番組には、天性の明るい笑顔が映し出される。歌舞伎の世界には「身替り」の話が多い。「身替り座禅」の勘三郎さん。狐忠信の躍動感、「狐狸狐狸ばなし」の伊之助。ああそんなどんでん返しがあったら「実は、ちょっと休養しててさ」と、来年の歌舞伎座オープンの舞台に中村勘三郎満面の笑みを見たかった。休むことなく回り続けた独楽の澄みきった芯が悲しい。
  (八幡平市、歌人)


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