盛岡タイムス Web News 2013年  1月  16日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉316 伊藤幸子 「めくら暦」

 暖かく暮れて月夜や小正月
                  岡本圭岳

 正月気分もたちまちのうちに三が日がすぎ、松飾りも外され小正月を迎えた。一陽来復、冬至からこのかた朝の太陽が明るく眩(まぶ)しい。なんとも慌ただしかった歳末の日々、昔ならば神々のお年取りでさまざまなしきたりに従ってこまやかな年用意があった。私の地区では師走なかばにはお年取りのおふだが配られる。老人会の当番のおばあちゃんが来ると、ああ正月の準備をしなくてはと思う。

  現代は神々よりも人間の年越しツアーがにぎやかだ。歳徳神のご招来よりも離れ住む子孫の到着時間に気がもめる。「カレンダーを吊る位置曲がりゐるやなど声かけあへば楽しきものを」思わず口をついて出たことば。家族の来るまでに脚立に上って丈長い歌舞伎カレンダーを吊る。「ねえ、曲がってる?右?こっち?」などと声をかけ合いながらの作業ならどんなに楽しいかと、気づけば歌になっていた。

  みんなの目につく所に「めくら暦」を貼る。これは重宝して他県の方々にご年始に送り喜ばれるがその際少し解説を加える。絵暦、あまりに判じ物で初見では意味不明と思われる。

  まずタイトルに、塀と井の字を背中に負う男の絵。そしてお重が二つ、星が五つと今年の巳の絵柄。これで「塀井背(へいせい)二重五年」と読む。八十八夜は、お鉢(はち)が一つ、お重が一つさらに鉢と矢で鉢重鉢矢。5月2日ごろだ。次に笑えるのは荷物をかついだ怪し気な男の図。解説では盗賊が荷を奪う、荷奪いつまり「入梅」。私はこれを幼児期、としよりたちから「荷をベッと投げるがらニュウベエだ」と聞かされてずっとそう信じてきた。でもよく見ると投げるではなくかつぐ絵だ。自分で解説が読めるようになって、そうか、荷うばいかと知り大いに笑った。

  珍しく花の絵。ほんのりまるい芥子(けし)の花に濁点でゲシ、6月21日夏至の表示。二百十日は銭(ぜに)束二百文と砥石(といし)と蚊の図柄。これは四年生の孫との会話でもややこしい。ゼニってこんなに束になってたの?トイシってナニ?そうだよなあ。しかも私はあらぬことを考えた。「虫ヘンに文って、ブンブン飛ぶのはハエなのにね。カだったらどうして虫ヘンに火か夏でないんだろう?」どうやら江戸の狂歌「ブンブンといふて夜もねられず」がこびりついているらしい。「飛んで火に入る夏の虫、虫ヘンに火か夏を書いてカ。おばあちゃん、新漢字を作れば!」と大笑い。昔も今も笑いは最高の常備薬。巳年めくら暦は最高の笑い暦になった。
    (八幡平市、歌人)



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