盛岡タイムス Web News 2013年  8月  23日 (金)

       

■  〈学友たちの手紙〉142 八重嶋勲 諸先生の近くに居たい心


■189巻紙 明治三十七年二月七日付

宛 東京市本郷區臺町十九、三洲舘 野村長一様

発 Feb,7th,1904 紫波郡赤石村 岩動孝久

君も嘗つて見た、京より取寄せた、鉢の梅、度々室から出しては見ますが、僅にその紅白を判じ得るに止まる位の蕾、道のおくはまだ春は立つても寒さは依然たるものです、

今日君の手紙が届いてうれしく拝見しました、きのふは柴のおとどと原公とへ手紙奉つたがその翌日君から手紙がつくなどは頗る妙といはざるを得ないですな、

君が都へ出て以来家から出たのハ実にすこない、日詰へは病院に行つたとき世に始めて人力雪車といふものに乗りました、たしか君も見た筈我輩の意見でハこんなものに乗るよりは歩いた方がいヽとの事であつたが、やむなく乗つて見れバこれハ又格別の面白味もありました、

曰く雪車夫(ユキシヤフ、ともソリヤとも読むべし)が後より押す故、幸に千篇一律な腰の動きを見ることをまぬかれ得ること、

曰く、往来の人と行ちがふとき、乙に見下さるヽ心地、これは又車上で歩行の人を見下したときとは正反對曰く、馬のあばれる側を通る時の氣持、

盛岡へは三度出ましたが、いつも歯科医へやむなく出たりするので諸先生へも面會の機少いです、

その外に外出といつても停車塲へ行く位なもの実にひどい閑居です、

屋根から雪を落したら我輩(君も知る身長丈ハチョーヘーケンサの折も人をして驚き恐れしめた我輩)の頭よりも高いのには実に驚いたよ、雪國の仲間入りしたのでハあるまいか、雪も一晩に三尺も積ったその折一寸ハうれしいものだけれどこう根氣よく消えもしないで居ると困つたものです、

今日君の手紙と共に届いた新聞紙はもう戦が始まつた様なことを書いて居ます、今日出た東京新聞ハどんなことを報じてゐるやら、田舎に居て友のたよりもなく、閑殺される我にハこの報ばかりうれしいものハないのです、仝じ電文を二度三度讀みかへしてその翌日の新聞を待つてゐる、まアシヨウ事なしの新聞精讀ですな、

ゐ[猪]川君ハ巣鴨の方へ轉ぜられた由、いかにも臺町から巣鴨へハずい分遠いからやむを得ざるに出るでせうが、ゐ[猪]川君は一人置きたくありません、三日に一度位はぜひあつてやらねばなりません、此頃ハ満足して居られるかも知らんが、あまり一人でいろんな事を考へ過すとよい事ハないではありますまいか、

此頃中に上京したいと思つて一寸家へも話しましたから、どうか話を早く実行する様につとめて此の月のうちに出たいと思ひます、もうこうなるとちつとも何も手につきません、下宿は君の所があいてゐるなら一寸そこへ願はうか、もし都合わるけれバ、柴、原舘(小石川)へでも失敬しやうか、まア諸先生とハちがつて一向忙くない体なれバどこにどうなつてもいヽけれど諸先生の近くに居たい心、どうか柴、原舘と貴舘とで御都合いかヾを一寸知らして下さい、

學校はどうなるかまアその辺ハその地に行つてからでもおそくないし、何をどうといふ事もありません、
原先生の風邪もすぐ快かつたとハ幸、どうも胸のわるかつた人の風邪と聞くと実にビツクリします、
後藤先生にハどうですあひませんか、

盛岡へ姉崎博士が来られたつた由、その前日も翌日も盛岡へ出ましたが残念にハ演説を聞きませんでした、

石川一氏ハすでに上京せられたやら、此頃姉崎博士から手紙が来て時代思潮へ投稿を乞ハれたといひ居る由、これからハ黄金時代でせう、

此頃米國のSt.Nicholasといふ雑誌がとヾきました、罪がなくて面白う御座います、

上京ハ近きにあるけれど一応御手紙に接したい、これハどうもつまらない手紙になり了りました、 サヨ
ナラ

   二月七日午後
               岩動拝
  野村老兄
     虎皮下
   巻紙のおしまひとなりたるは早く松屋のそれを購うべき運命ではなかろうか?

 【解説】「人力雪車」という乗り物があり、乗ってみての感想が面白い。この年雪が多かったらしく、一晩に3尺(1b)も降り、なかなか消えないと書いている。長一と同宿だった猪川浩が、遠い巣鴨の方に転居したらしいが、彼を一人にしたくないものだ。一人いるといろいろなことを考えるから、三日に一度は会ってやらなければなりません、と親友のことを心配している。また、いよいよ再上京が近づいて、何も手につかない、まずは君のところか、柴浅茅、原抱琴の下宿に一時的に置いてほしい。進むべき学校は、上京してから考えることにする、という。盛岡へ姉崎博士が来られた由、石川一氏に手紙で「時代思潮」へ投稿を請われたという。石川一氏はもう上京したであろうか、という内容である。


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