盛岡タイムス Web News 2013年  8月  28日 (水)

       

■  〈日々つれづれ〉186 三浦勲夫 幸福度


 幸福度という尺度がある。英国の自然保護団体が定める世界幸福指数やOECD(経済協力開発機構)の幸福度がネットに紹介されている。残念ながら日本は幸福度が低い国である。世界幸福度は環境負荷を重視するのでコスタリカやベトナムなど発展途上国が総じて高い。日本は143カ国中75位である(2009年)。OECDのそれでは経済的満足度で日本は高いが、他の部門ではランクが低い。総合点では36国中21位(12年)である。

  幸福はそれを意識しない時が幸福であるとも言われる。かつて「幸福論なんて古い」と言っていた人がいたが複雑な問題を抱えていたようだった。先進工業国ではなかなか幸福度のフル達成は難しい。今ではさまざまな要素を含む概念を単に「幸福」とは言わず「ウェルフェア」と言うそうだ。福利、健康、満足、環境などを総合する心理学的用語のようだ。

  メーテルリンクの「青い鳥」では、幸福の青い鳥を求めてチルチルとミチルの兄妹が家を出てあちらこちらを探しまわる。どこにも見つからず家に帰るとそこに青い鳥がいた。家庭に、自分がいる場所にこそ幸せがあるというメッセージである。また、自然美鑑賞、過去や神話との一体感、人間愛の三つを幸福の3段階と規定したのは19世紀初頭の英国詩人ジョン・キーツ(1795│1822)だった。世界幸福度の概念に近そうだ。

  幸せが容易に求められない事象が続く。老々介護をする人とされる人がそろって死亡しているのが何日か後に発見される。公共料金を払えない母子が、水も電気も止められて餓死する。ギリギリの生存ラインを生きる人たちが、そのラインから転落する。最低の生存条件を挙げれば、金銭(仕事、年金、貯金、生活扶助など)や医療(健康保険)がある。先進国でもその光に当たらない人たちが多い。こうした生活弱者にも物質的、精神的支えが行き渡る施策を強化することが、日本を含む先進国の幸福度を少しでも上昇させるだろう。

  現在、日本は「デフレを脱却しつつある」(内閣官房参与)という状況だが、企業に収益が集中しても被雇用者あるいは一般消費者に収入の増加が見られない。他方、個人の生活設計に前向きの態度が求められる。仕事に励み、健康作りに取り組み、老後の生活をまず自力で支える意識である。同時にそれを支援するのが良き政府、良き政策ではないか。

  まだまだ自然が豊かな地方自治体も自然保護や第一次産業保全に知恵を絞らねばならない。今夏の日本列島は異常気象と異常天災に見舞われた。地球の温暖化が40度を超す異常高温やダムの渇水、熱中症のみならず、異常降雨による水害、土石流をもたらした。この傾向は変動を見せながらも将来も恒常的に続きそうだ。2年半前に福島第一原子力発電所がメルトダウンの大事故を起こした。豊かなエネルギーを生み出す原子力が多くの人の生活、家、故郷を奪った。高濃度の放射能を含むタンク貯蔵水は漏出し、廃炉には今後莫大な費用と時間がかかり、放射能による環境汚染、漁業停止をもたらす。

  かつては物質的豊かさが幸福度を支えてきた。しかし、その豊かさが一転して幸福のもろさを露呈させた。皮肉である。廃炉とそこに至る過程での放射能公害の対策費用は税金や電気料金値上げという形で国民に転嫁される。安全と無事故を確保するエネルギー政策が幸福度の大きな要素となる。幸福度の要素は複雑多岐である。
   (岩手大学名誉教授)     


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