盛岡タイムス Web News 2013年  12月   4日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉362 伊藤幸子 まだ昭和


 大根に味しみてゆく十二月
             中川浩

 「敬老の日のチラシ見る次を見る」と詠んだのはついこの間と思ったのに、もう師走。この分ではクリスマスセールも歳末大売り出しもあれよあれよと押し寄せてきそうだ。

  「現代川柳」11月号に「昭和」と題する中川氏の50句を読んだ。「もう過ぎてしまった昼という時間」「E・Tに似てきた 老人に似てきた」「年とってみろ夕焼けがきれいだぞ」。

  兵庫県明石市在住の中川さん(72)、父上は警察官で外地勤務、氏は台湾生まれの由。その後父の戦死、ぬきがたく戦争の影を帯びて戦後を歩まれる。50歳をすぎたころ、川柳とのご縁を得られて時実新子さんの「川柳大学」の会員となられた。

  「次々と灯をあとにした前にした」で2004年、「川柳大学」優秀作品賞受賞。06年には「見上げると光あふれている一戸」で秀作賞。作者は自転車が趣味という。それもスケールが大きい。「マレー半島ピースサイクル」という集まりで、タイ北部からマレー半島を南下してシンガポールまで、現代版銀輪部隊を2年ごとに5回、10年でやり終えたという。この二句は生き生きと躍動感にあふれている。

  「キャラメルのエンゼルここにまだ昭和」「隙間から光が漏れていた昭和」山本夏彦・久世光彦共著の「昭和恋々」を私はいつも側に置く。昭和28年東京千代田区の駄菓子屋。昭和11年、高円寺のカフェーや喫茶店の看板。ロングスカートの女性のうしろ姿。向こうから来るのは板前さんか、雪駄(せった)の爪先が軽やかだ。こたつの写真、今みたいに天板がなくて、やぐらに乗せた布団の上に、じかに針箱などを置いて足袋のつくろいをしているお婆(ばあ)さん。夜の明かりが障子に影を落としている。一粒300米のキャラメルに子供たちは目いっぱい笑い、明るい声が弾けていた。

  「あたたかいうちに引き取り手をさがす」一連50句のなかで、はたと考えさせられた句。あたたかいうち?引き取り手?この句の前後にヒントらしき句は見えずミステリーだ。生まれたての犬か猫か。この句に鑑賞指名をされた方は「病院に勤務する身としてはドキッとさせられる句」と書かれ、読者もドキドキ。

  「圏外という完璧な知らん顔」ケータイという新語にセットのように氾濫する「圏外」。平成の世にたちまちゆき渡ったケータイ文明に、「完璧な知らん顔」の不気味さ。でも、「モーニングコーヒー深刻にならんとこ」師走は光のページェント、煮物の湯気が窓にあたたかい。
(八幡平市、歌人)


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