盛岡タイムス Web News 2014年  1月  28日 (火)

       

■  〈詩人のポスト〉 「槐(さいかち)」かしわばくみこ


  
半桶(はんぎり)にお湯をはり
槐をうるかします

 上田一里塚への途中 旧奥州街道は
  自転車泣かせのきつい上り坂で
  乾いた音が風と一緒に吹いています

 大森山を背に一軒家があり
  門の脇 斜面の立木が
  空の高みで枝を広げ
  鉄色(くろがねいろ)のねじれた莢をぶら下げています

 ああ 冬の音 あれは槐
  と 気づくのです
  小春日和の坂径に転がる
  侘しい音につい手を伸ばしていました

なま温かいお湯の中で
かたくなに象をとどめる槐を
両手で曲げこすり合わせると
お湯が珈琲色に変わり莢が割れ種子がこぼれて
きび砂糖色の泡でおおわれました

夕餉のあとを順繰りに桶にいれ
ぼろぼろの莢を丸めて洗えば
箸も器も手さえもなにやらさらりとしてきました

泡はもう消えていました
家を出た母の記憶はないけれど
なんとも頼り気のない泡は
侘しい冬の流しに立つ
女たちが描く浅い夢のようでした



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