盛岡タイムス Web News 2014年  5月  28日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉385 伊藤幸子 「詩歌文学館賞」

 

  日本の風土かもせる味噌(みそ)蔵のような時間を体よろこぶ 
                                    玉井清弘

 5月24日、「第29回詩歌文学館賞贈賞式」が同文学館にて行われた。詩部門は北川朱実氏の「ラムネの瓶、錆びた炭酸ガスのばくはつ」、短歌部門は玉井清弘氏の第八歌集「屋嶋」、俳句部門は昭和3年生まれの柿本多映氏の「仮生」だった。

  私は今回、玉井清弘氏のご来県をお待ちしていた。2月26日のこの欄に、直木賞作家、故山本兼一さんの「千両花嫁」を書き、抽出歌に玉井氏の「陶工もかたらずわれも語らざりろくろに壺はたちあがりゆく」をお借りしたのだった。焼き物の内容に合う歌をと「角川現代短歌集成」から抽(ひ)かせてもらいながら短歌年鑑で調べればご住所も分かるのにそれもせず掲載紙をさし上げないで、うち過ぎていた。

  その方が北上市にいらっしゃる。しかもその前日、月刊誌「短歌」6月号が届き、「第48回迢空賞」も受賞とのこと。「屋嶋」より50首掲載で写真と受賞のことばも載っていた。

  氏は昭和15年愛媛県生まれ、皇紀2600年とことほがれて育った。大学卒業時から作歌。高校教諭を定年まで勤められ、歌集8冊ほか著書多数、数々の受賞歴に彩られる。

  さて壇上では選考委員の花山多佳子さんが選評を述べられた。抽出の「味噌蔵のような時間の、体験の時間軸がいい。すきだらけのふわっとした味わいを〈体がよろこぶ〉と感じとる〈ゆるいもの〉がいい」と語られた。

  この日配られた冊子には「木のにおい貰いだんだん川の香をもらいだんだんふるさとの伊予」「歩かねば至らぬ土地のみありし日の日本に吹きけん風なつかしむ」等、一読するりと海馬を潤す懐かしさに包まれる。「だんだん」は感謝を表す土地ことばとして今は全国に知られるようになったが、よそ者でも「だんだん」とほほえみたくなる場面だ。

  「はこがまえかくしがまえを潜め持つこの世の大地 淡雪の降る」「白村江(はくすきのえ)に敗れしのちに築く城半ばくずれて石組あらわ」「老いの首石に括りて沈めてんげり 源三位(げんざんみ)頼政白髪の頭(かしら)」と、私の好きな「たたかいがまえ」の武将たち。宮中での鵺(ぬえ)退治で有名な源三位頼政の話は親昵(しんじつ)、裏切りないまぜに、終幕は「石に括りて沈めてんげり」と音読してハッとわれに返る。そして「老いゆきて歌に新かな使うこと不気味にあれど覚悟をきめつ」と、氏の歌集は健脚のお遍路さんのよう。この日、私にも「味噌蔵のような時間」が蓄えられたと喜んだ。
    (八幡平市、歌人)



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