盛岡タイムス Web News 2014年  7月  30日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉393 伊藤幸子 「被災の海」

 
 地響きをたててダンプが押しよせる震災復興の工事現場に
                                  薄葉茂

 所属する短歌会の宮城支部より立派な支部報が届いた。60年の歴史を持ち、ガリ版からタイプ印刷を経て現在のパソコンへと、編集の方々の苦労がしのばれる。

  3年前の震災では宮城県も甚大な被害をこうむった。全国誌で薄葉茂さんのお名前を目にするようになったのは今年1月号から。もちろん以前から文学活動はされていたろうが、まだ8月号までしか届いていないのに、常に特選らんに定位置を占められて驚かされる。

  「暗闇とさざめく波にバカヤロウと叫びつつ行く午前零時半」「空港のサーチライトがかき混ぜる闇はあの日の津波のごとし」「そこのおまへ何に憤(いきどほ)り生きてゐる背後で笑ふ無数の人魂」幾万の命を奪い去った海。バカヤロウと叫ぶ生者、持っていきようのない憤り。波音も人の感情の振幅も、サーチライトにかきまぜられて己の立ち位置さえも見失いそう。「無数の人魂」といわれると本当に、想念のかたまりのようなものが青い火を噴いて漂うかのように思われる。

  「春一番仙台平野に吹き荒れて乾きし海泥(かいでい)が家々を襲ふ」この作品に支部の評者が短評。「震災後の海がとても綺麗(きれい)だという。海底にあったものが津波で陸へ上げられたからだ。その海泥が乾いて、春一番が吹けば家々を襲うという。内陸に住む者には知らなかった事柄を教えていただいた」とあり、浜の人たちの体感をあらためて考えさせられる。

  「自らをさだまさしと呼ぶさだまさし恐らく己が好きなのだらう」「被災地で短歌をつくる妻のためさだまさしからサインをもらふ」「さだまさしはマイ筆ペンを取り出して春の小川のやうな字を書く」なんとも楽しい作品群。そして、この「被災地で短歌をつくる妻」とは現在中央歌壇でも実力を発揮している斉藤梢さん。昨年第二歌集「遠浅」を発行、注目を集められた。7月号のこの歌に対して妻の歌「夫の書きし取材の記事の〈さだまさし〉明日はわが家の新聞となる」が誌面を飾る。奥さんの方が歌の先輩。

  「七北田川(ななきたかは)流るる町に新しき姓さづかりて寒ぶりを買ふ」という梢さんのみずみずしい相聞歌に目をみはったものだったが、その「新しき姓」が薄葉さんと知り、ご両人の幸せに乾杯!

  「海の砂ほどにささいなこの我と被災の浜が闇に溶け合ふ」みんなみんな砂の一粒のような命が被災の浜に溶け合って新しい明日を迎えようとしている。
    (八幡平市、歌人)



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