盛岡タイムス Web News 2014年  8月  12日 (火)

       

■  8・9豪雨から1年 問われる避難の判断基準 過去の教訓には限界も 松林助教(岩手大 海岸工学)に聞く


     
  効果的な避難情報などについて研究する松林由里子助教  
  効果的な避難情報などについて研究する松林由里子助教
 
 
  局地的な豪雨で、気付くと住宅が浸水し始めていたと話す住民は少なくない。1年前の豪雨では花巻市の住宅に土砂が流れ込んで高齢の女性が犠牲になった。行政による効果的な避難情報の発信だけでなく、住民自らの適切な判断と避難が必要だ。岩手大地域防災研究センターの松林由里子助教は当時の住民の避難に関する調査を踏まえ、「どこが安全か、どうやって避難できるかの想定を」と住民に呼び掛ける。

  ■東日本大震災との比較

  松林助教は海岸工学が専門。2010年から岩手大工学部社会環境工学科に所属。11年の東日本大震災津波を踏まえ、津波発生時の沿岸部の小中学校、漁業者を対象に避難行動について調査した。

  津波と洪水の避難を比べると「時間のスケール、情報量が違う」と説く。「情報源が地震の発生に始まり、津波注意報・警報が出たら逃げるしかない。津波が海から来るのは分かっているし、シンプルだ」と話す。

  一方、洪水は気象予報で低気圧や台風の接近する情報が数日前から流れ、各地の被害や台風の解説もある。「警報が出ても津波のようにすぐ逃げず、様子を見続け、避難勧告・指示も出たり出なかったりする。近隣市町村内で被害が出たとか、インターネットで情報を見たとしても、いつ避難するべきか判断、決断がしにくい」

  ■矢巾、玉山で意識調査

  松林助教は昨年県内陸部で豪雨や台風被害が多発したことから、洪水時の住民避難に注目。豪雨被害の矢巾町又兵エ新田、9月に台風18号被害を受けた盛岡市玉山区で住民を対象に調査した。

  矢巾町の調査から「ハザードマップからすると、まさか浸水するとは思わなかった」「思いもよらない橋から水があふれた」などの意見があった。洪水対策の専門家は小規模河川の災害は行政の対応に限界があり、住民自ら避難する判断が求められるという。

  こうした中、「洪水時に近くの川を見に行かない」と言われながら、「降雨状況や川を見て自分で判断して避難したという人の方が警報や避難勧告で避難した人より多い」ことが調査で分かった。「いつ逃げるか判断に悩む時、逃げてと言われると判断しやすい」

  ■過去の教訓も限界

  「ハザードマップが100%正しいわけではない。どこが決壊するか分からないし、降雨の状況は昔と明らかに違って短時間に急激に降ることもある。住民も行政も過去の経験が役に立たなくなっている」と説明する。

  その上で「最悪のケースが起きた場合、どこが安全か、どういうふうに避難できるか事前に想定しているかどうかで避難行動は変わる。避難経路上にある河川や用水路に近づかないことが大事だ」と強調する。

  松林助教は今後、昨年洪水被害を受けた地域を対象に、町内会や自主防災組織、消防団で用意している対策についてヒアリングを予定。住民の避難決定や消防団活動の契機となる情報が何かを調べる。効果的な災害・避難情報の発表方法や利用するべき情報などを掘り下げる考え。
  (この取材は大崎真士、山下浩平が担当しました)。


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