盛岡タイムス Web News 2014年  11月  19日 (水)

       

■  〈日々つれづれ〉248 三浦勲夫 風向き


 「解散風」が袋の中でうごめいていたが、ついに吹き出した。折しも11月半ば、盛岡はじめ岩手のあちこちで初雪が降った。解散風は、ヒソヒソとささやかれ、首相や側近は、預かり知らぬ「風」を装い、風向きを計っていたが、いざとなると早い。一陣の旋風となり、瞬く間に与・野党を駆け巡った。疾風である。疾(はや)きこと風のごとし。

  その日、気象予報士さんがテレビで解説していた。「この時期の代表的な移動性高気圧には2種類あります。一つはシベリアで生まれ、冬の寒気団となります。もう一つは揚子江付近で生まれ、南からやって来る温かい高気圧です」。偏西風にあおられながら日本列島にやって来る。初雪は八幡平市、盛岡市藪川、宮古市区界などで積もった。滝沢市にいた私はみぞれに遭った。「えっ、いよいよか」と身構え、心構えを決めた。

  風にもいろいろある。東風(こち)、南風(はえ)といえば春や夏の温かい風。北風、木枯らし、空っ風といえば冬の身を刺す風。西風は?と思ったら、あった。イギリスの詩人シェリーの作品「西風のオード」である。イタリア・フロレンスに近いアルノ川岸の森で一気に書かれた(1819年)。いつもは穏やかな西風が一転した。雨、稲妻、風、ひょうがすさまじい勢いで襲い、木の葉を一斉に吹き飛ばした。南アルプスから吹き下ろす猛風に、たじろぎつつも、果敢にその破壊力をわれにも与えよ、と呼び掛ける。しかし、嵐と冬の後に、春が来ることも忘れない。「冬来たりなば、春遠からじ」と最後を締めた。

  上空高く「偏西風」が蛇行する。高気圧や低気圧の気団配置が蛇行させる。偏西風に吹かれて、大きく見れば風も西寄りに吹く。日本では「北西の季節風」とか「北風」が冬に吹く。イギリスでは大西洋から、西風が年中吹くそうだ。しかし冬には北から吹き下ろす。北大西洋の寒風である。アメリカ北東部、大西洋岸のニュー・イングランド地方では、冬の風を「ノーリースター」と呼ぶそうだ。Noreaster。「北東の風」を地域でそう呼び習わす。所変われば、品変わり、風向きも変わる。

  日本の夏から秋にかけて、南から吹く風は弱ければ温かいが、強ければ熱帯生まれの台風となる。ハリケーンもサイクロンも同類である。「強くて大型の台風」と呼ばれるのは「スーパー・タイフーン」である。天地ことごとくを吹き飛ばす勢いで、屋根を剥がし、木や電柱を倒し、大洪水、土石流を引き起こし、多くの人命を奪う。雷、稲妻、雪、ひょう、雨。風が竜巻を伴うこともある。先週の北日本の初雪は嵐ともなった。

  シェリーの「西風」は北イタリアの晩秋の南アルプスおろしである。解説ではイギリスの西風は、春を呼ぶ穏やかな風とあるが、そうばかりとも限らない。イギリスにも春一番が吹き荒れる。これも西風だと思われる。大西洋からの強風である。日本では春一番も吹き、木枯らし一番も吹く。その後に初雪が降る。

  子ども時代、初雪を待った。雪遊びと家庭の憩い。唱歌にもあった。「ともしび近く、きぬ縫う母は、春の遊びの、楽しさ語る」。古い歌暦が懐かしい。室内のだんらんと外の吹雪。シェリーは「西風」を書いた2年後、イタリアの海で嵐の中、小型帆船エアリアル号が沈没して溺死した。30歳。シェークスピアの「嵐」には同名の空気の妖精が登場する。
   (岩手大学名誉教授)


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