盛岡タイムス Web News 2015年  2月  18日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉423 伊藤幸子 「現代の怪談」


 片手ぶくろ失ひしより春めくや
                  及川貞

 かんたんに物を捨てられない。それも大方は紙類で、捨てないのに物を紛失する。かつて山本夏彦さんが「私が探せばぜったい無い」と書いておられたが、まさに私の日常だ。

  佐藤愛子さんの作品にも紛失物の話がある。小説よりも奇なる「血脈」の中に、氏の異母兄真田与四男という人が登場する。さらに入りくんでそのイトコの孫という人物に、愛子さんは会ったことがないけれど、手紙を持っていると書かれる。ああしかし、持っていたのは手紙の中身だけで、差出人の封筒がない。住所不明では返事を出せないと何年も苦悩する作家に同情する。

  私の苦悩の中に、内田康夫さんの本のことがある。昨年7月初版の「浅田光彦最後の事件・遺譜」上下巻。「ミステリー界激震!衝撃のラスト」の呼び声につられて買った。360nもの大作2巻、夢中で読んだ。

  ある日、この本の書評が新聞に出た。「浅見光彦は僕自身」として作者が語る創作の秘密。ところがこの文面の9段組みの下2段が切り取られている。切ったのは私本人だからくやしがってもしようがないのだが、よく見ると切られた裏側は内館牧子さんの連載小説「終わった人」83回分だった。私はあわてて図書館に走り、9月30日のその新聞を探してもらい、コピーを取って帰宅した。やがて暮れの掃除中、たまっている新聞の山の中に、ちゃんと切り残しの記事があった。私はあたかも行方不明の愛児に再会したかのごとく喜びの声をあげた。

  ミステリーついでに、東野圭吾さんの「プラチナデータ」に、なんとも不気味な名状しがたい現代の怪談を感じた。2006年、直木賞「容疑者Xの献身」が出たときはついていけなかった。

  DNA・遺伝子をテーマとした舞台設定。精神疾患と遺伝子、多重人格者の存在感。今回敬遠しながらも読み進むスリルにはまり、夜明け方には読了していた。

  映画化もされたこの作品、主人公神楽龍平は警察庁主任解析員。その分身リュウ。肉体は一つなのに、たばこそっくりの反転剤を使うともう一人の自分が現れる。恋人スズランとの逃避行。

  DNA判定で導き出された犯人は神楽自身との筋書きは未消化だが、スズランの持つ青と白のストライプの袋が目に焼き付く。これはもらったチョコレートが入っていた袋で、そこにプラチナデータが隠されてあるという。近未来の探し物をめぐり、私はまだ不気味な動悸(どうき)を抑えきれずにいる。
(八幡平市、歌人)



本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします