盛岡タイムス Web News 2015年  4月  1日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉429 伊藤幸子 「新しい友」


 春眠の覚めてさだかに遠き人
                 中村汀女

 最近必要があって古い作品を読み返している。ふだん必要に迫られて本や資料を探し、終わるとすっかり忘れてしまう。ことにも人から頂いた書簡類は大切にと思うあまり歳月の嵩(かさ)にまぎれて見失ってしまう。

  「ことし、新しい友を得た」という書き出しで私の記憶のテープは巻き戻されてゆく。「あて名、山梨県北巨摩郡と書くうちに、むかし大変よくしていただいた歌人のことを思い出し、古びた歌集をひもといた」として、昭和47年3月10日発行の佐野四郎さんの歌集『白雲集』に思いをはせている。こちらは南巨摩郡だ。

  昭和47年ごろの日々、氏はすでに古稀をこえていらしたが拙歌「三人目を身ごもる夏も逝かむとすあをき扇風機の羽を拭きつつ」を出したときはすぐおはがきが届き、「双児ならまだしも、三つ児をみごもっておられるか…」と気遣っていただき、とび上がって驚いた。

  そして「新しい友」のこと。それは平成18年師走の盛岡文士劇のときだった。一緒の席の文人Nさんがロビーでしきりにあるご婦人と話しておられた。聞けば本日の主演、新撰組隊士の市川鉄之進役、NHKの利根川真也さんのお母様とのこと。ご家族総出で山梨県からいらしていて劇の話で盛り上がった。

  五稜郭本陣の場、高橋克彦座長の演ずる土方歳三が絶命のシーン。「もう、目が見えねえ」とつぶやく土方に「死んじゃ駄目だ。土方さん!」と呼び続ける利根川隊士。頭上からは無数の雪が降り続く…。

  平成20年は「宮本武蔵と沢庵和尚」。このときも泣かされた。舞台中央の千年杉に高々とつられた17歳の武藏を利根川アナ。斎藤純さんの佐々木小次郎にも胸のすく思いだった。

  そして21年「さらば義経」。貫禄の秀衡公はもちろん高橋座長、北条時政を谷藤市長。壮麗な甲冑(かっちゅう)に身を固めた利根川義経、対するは斎藤純弁慶の見事な長槍のうなる音。その長槍に乗った義経の見得に大喝采(かっさい)。

  私は盛岡文士劇が終わると、その反響の載った新聞やタウン誌を「山梨県北巨摩郡(今は北杜市)」の利根川さんの生家にお送りしたものだった。ファンクラブ結成でもしましょうといつも書き添えたことだった。

  ああしかし、先ごろ3月25日に受信のおはがきで、東男利根川さんは、なんと九州地区にご転任とのこと。岩手で5年、そのあと島根で4年間すごされて、今後は九州の魅力発信に励まれるとあり、若い意気込みに期待している。
(八幡平市、歌人)



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