盛岡タイムス Web News 2015年  5月 20日 (水)

       

■  〈口ずさむとき〉436 伊藤幸子 「君たちは十七歳」


 目線同じ高さになりて向き合えば十七歳って目がきれいだね
                                       三枝浩樹
                              「角川現代短歌集成」より

 大型連休でつかの間、子や孫の顔を見て、会話の輪に身を置くうちに、私もさまざまな情報ツールを使ってみたくなった。大体なんで私だけこんなに現代メカにおいてけぼりをくってしまったのかとわが身の不幸を嘆く。ケータイ文化のめざましさ、映像機器の迅速さ。

  パソコンは息子に何度あてがわれたかしれない。人がいる間は面白くて、文字の変換も機械との知恵くらべのように思えて、これなら難なく使えそうと喜ぶものの、人が去り意のままにならない事態が生じるとイライラ。その間にもせっかくの着想が色あせてゆく恐怖。

  そんな電子機器に振り回される本を読んだ。直木賞作家、平成元年生まれの朝井リョウさんの作品が面白くてたまらない。タイトルに引かれて手に取った「桐島、部活やめるってよ」にまずくぎ付け。「単純にバレーボールが好きだった」「そして桐島はキャプテンだった」として若者ことばの連鎖の中で開放的な高校生活が展開されてゆく。「君たちは十七歳で、高校二年生で、まっ白なキャンバスで―」と続く校長先生の話。

  「俺達はまだ十七歳。これから何でもできる、夢も希望も何でも持っているなんていわれるけど本当はちがう。僕らは気づかないふりをするのが得意だ。自分が傷つきそうなことには近づかない。ひとりじゃない空間をキープしたままでないと教室って息苦しくてたまらない」とつぶやくオレ。

  この本の解説で吉田大八氏が「タイトルといい装丁といい帯の惹句(じゃっく)といい『お若くない方にはご遠慮いただきます』といんぎんに断られているような気がした」との述懐に同感。

  でも、ふと敷居を越えて読んでみたら氏のみずみずしい作品世界のとりこになってしまった。2009年、同作で第22回小説すばる新人賞受賞、13年「何者」で第48回直木賞受賞、14年「世界地図の下書き」で第29回坪田譲治文学賞を受賞。

  「いつか誰かに生まれ変われると思っている暮らしに、いいかげん気付こうよ。私たちは何者なんかになれない。自分は自分にしかなれない」という「何者」の理香。夏の山形での免許合宿の話。私は23年前、天童免許センターで都会っ子の合宿組の若者たちと一緒に免許を取った。

  ゴールデンウイーク中、私は朝井ワールドにしびれ、大量に買い込んだ新刊書をむさぼるように読んでいる。そして中一で入部したての孫が「イトウ、部活やめるってよ」と言われないよう願っているところだ。
(八幡平市、歌人)



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