盛岡タイムス Web News 2015年  8月 14日 (金)

       

■ サイパン島大津部隊の奮戦 装丁に八百二の戦争画 小林よしのり劇画「卑怯者の島」(小学館)描かれた玉砕

     
  橋本八百二の作品をあしらった小林よしのりの「卑怯者の島」  
  橋本八百二の作品をあしらった小林よしのりの「卑怯者の島」  


  紫波町出身の画家、橋本八百二(1903〜79)の戦争画「サイパン島大津部隊の奮戦」が、小学館発行の小林よしのり氏の劇画「卑怯者の島」の装丁をあしらった。東京国立近代美術館所蔵作品。八百二は従軍画家として国策に沿った時期があり、戦後は画風を転じた。作品は1944年6月のサイパン島の戦いを描き、45年の陸軍美術展に出品された。玉砕戦に材を取った作品の象徴として、ブックデザイナーが選んだ。

  小林氏は「ゴーマニズム宣言」などの作品を通じて日本の近代史を劇画化し、歴史認識問題などに論陣を張ってきた。「卑怯者の島」は小学館の「わしズム」の2007年から09年にかけての連載に書き下ろしを加え、戦後70年特別企画として7月に単行本化した。

  「戦争と美術1937−1945」(国書刊行会)によると、八百二は満州事変勃発後の1932年2月には大陸に渡り、取材体験をもとに時局的な制作活動をしていた。「サイパン島大津部隊の奮戦」は、「ニューギニア戦線」と並ぶ戦中の代表作。既に戦局が傾いた時期の作品で、戦意高揚のテーマのうちに、日米の死闘の暗澹(あんたん)が塗りこまれている。

  小林氏は自作について「反戦漫画でもないし、好戦漫画でもない。主張したいイデオロギーがあるわけではなく、ただ最も過酷な戦場での主人公の心理を追っていっただけである」と後書きに記す。

  「表紙カバーに使わせていただいたのは橋本八百二画伯の『サイパン島大津部隊の奮戦』で、昭和19年頃の作品である。デザイナーの鈴木成一氏が選んでくれたのだが、一目見てあまりに壮絶な絵の迫力だった」と、八百二の筆力に脱帽している。

  八百二の孫で著作権継承者にあたる東京都の世田谷美術館学芸部長の橋本善八さんは、「小林さんが自作のイメージと重なるのでぜひ使いたいと、小学館を通じて申し出があった。小林さんの作品については、ある種のメッセージを発していることに関心を持っていたが、このような形で祖父の作品に着目してくれるとは思わなかった」と受け止める。「小林さんと八百二の作品のイメージが重なりあい、装丁の一部に使われることも、ひとつの表し方ではないか」と話している。

  「美術の世界では、八百二が戦争画を描いていたことについての問いはよく出てくるが、戦後70年で記憶にリアルな感覚を持った人が少なくなった今、戦争にまつわる事柄を整理しておくぎりぎりのタイミングではないか」と話し、祖父らの戦争画を、美術批評の上から検証する。

  「卑怯者の島」はA5判493n、定価1800円。


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