盛岡タイムス Web News   2017年  7月  21日 (金)

       

■  岩手の文学ページ新たに 沼田真佑さん本県初の芥川賞 県民、作家の宿願実る


     
  芥川賞にノミネートされ本社を訪れた沼田さん(6月29日)  
  芥川賞にノミネートされ本社を訪れた沼田さん(6月29日)
 

 盛岡市の沼田真佑さん(38)が本県初の芥川賞に輝き、県民に感動が広がった。受賞作「影裏」は今年の文學界新人賞に選ばれていたが、東日本大震災後に福岡市から盛岡市に移り住んだ沼田さんは、県人作家としてはダークホースだった。デビュー作で登竜門を抜け、日本、岩手の文壇に新風を吹き込んだ。直木賞作家の高橋克彦さんは、沼田さんの受賞を機に後進の活躍に期待。県内の書店では、作品の入荷を心待ちにしている。

  沼田さんは東京都内での19日の記者会見で、「一本しか書いていないので、ジーンズ1本しか持っていないのに、ベストジーニスト賞をもらったよう」と感激を語った。

  「影裏」は盛岡市を舞台に、東日本大震災にテーマを求めた。沼田さんは「あのようなことがあると1回書かなければ他のものが軽薄になると思い、岩手に住んでいるので、みそぎのように書いた面がなくはない」と話した。

  本県からの芥川・直木賞は1992年の高橋克彦さん以来。芥川賞は7人ノミネートされたが、受賞は沼田さんが初めて。高橋さんは「今まで7人最終選考に残りながら、だれもできなかったこと。岩手からは芥川賞を出せないのかと思ったことがある。方言や地名が分かりにくいので、中央との距離感があった」と話し、芥川賞は県人作家の宿願だった。

  啄木賢治の岩手でありながら、純文学を指向する書き手は少なかった。高橋さんは「彼は生粋の岩手県人ではないので、岩手に住んでいながら別の視点で書き、小説の展開を深めている。それで普遍的な世界を表しているので、こういう書き方で岩手の純文学があるということを示したことに、若い人たちが続いてほしい」と話した。

  同市の作家の斎藤純さんは「岩手にはこれだけ多くの作家が輩出されながら芥川賞作家がいなかったのは七不思議で、沼田さんが受賞してくれて一安心」と喜んだ。

  さらに「処女作が受賞するのは良い巡り合わせ。大学生や20歳ぐらいで受賞する人はその後苦労しているが、38歳の受賞は安定して作品が出せるのではないか。自分の経験を踏まえた作品を出してほしい」と期待した。

  東日本大震災津波を題材にした作品については「震災についてはどんな形でも、文学や音楽など、いろいろな手段で震災を表現することで興味を持つ人の裾野が広がる。ドキュメンタリーや報道だけで震災の風化は防げない。7年目になって、ようやく震災を昇華した文学作品を書き上げる人が出てきた」と歓迎した。

     
  沼田さんの芥川賞受賞を報じる新聞を見て喜ぶ盛岡二高文学研究部の生徒  
  沼田さんの芥川賞受賞を報じる新聞を見て喜ぶ盛岡二高文学研究部の生徒
 


  文芸活動に取り組む本県高校生にとっても、うれしいニュースだった。盛岡二高文学研究部(熊谷友里部長、部員15人)の熊谷部長(3年)は「盛岡に住んでいて、塾講師という私たちの身近な存在の人が第1作で芥川賞。本当に素晴らしい」と喜ぶ。副部長の葛西礼奈さん(同)は「他県から越してきた人がどのように岩手を書いているのか、単行本で読むのが楽しみ」と心待ちにする。

  特に小説に力を入れている牛越凜さん(2年)は「岩手に住んでいる者として誇り。東日本大震災を題材にしたところにも心引かれた」、小説家を目指しているという渡部華帆さん(同)は「本県在住者の初の芥川賞はすごいし、正直うらやましいとも思った。夏休みはコンクールに応募する作品を仕上げたい」と奮起していた。

  同市のさわや書店では、沼田さんの受賞作が掲載されている月刊誌「文學界2017年5月号」が受賞日のうちに完売。翌日には、公官庁や市民から在庫の問い合わせが相次いだ。再入荷は25日前後でフェザン店、本店に各10冊ずつに入る予定という。その他、作品の単行本は7月末ごろ入荷。受賞作品が載る8月10日発売の「文藝春秋9月号」は80冊ほど入荷する予定。

  同書店外商部の栗澤順一部長は「岩手初の芥川賞受賞は、地元書店にとって非常に明るいニュース。他の地元作家さんと同様に、全力で応援していく。ぜひ地元の人にたくさん読んでもらいたい」と受賞を喜んでいた。


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